壺齋散人の旅
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安曇野へスケッチツアー




筆者が通っている画塾彩花堂で、信州安曇野へ恒例のスケッチツアーを催すというので、初めて参加してみた。

ここへ通うようになってからもう10年くらいになるが、これまでは仕事中心で生きてきた身の悲しさから、平日のんびりと行われるこうした行事にはなかなか参加できなかった。定年を過ぎたいまは、心のゆとりが生まれたのだろう、休暇をとって、若い頃によく登った北アルプスの麓で、筆をふるおうという気持になれたのだ。

朝の8時頃市川の駅前に止めてあるバスに乗り込むと、仲間の塾生が30数人、すでに座席に腰を下ろしていた。中には数人、日ごろ顔見知りの人もいるが、大部分は初対面の人だ。それも男性は塾長の鈴木輝美画伯をふくめ、ほんのわずかしかいない。殆どは人生を嘗め尽くしたといえる妙齢の女性たちばかりだ。

最後部の座席に腰掛けると、隣に座っている女性が気を使って、いろいろと世話を焼いてくれる。座り心地はいかがですか、乗り物酔いは大丈夫ですか、よろしかったら飴玉でもしゃぶって下さいな、といった具合だ。

バスは中央高速道路を走り、雪を冠した富士を垣間見て、南アルプスと八ヶ岳の合間を通り抜け、昼近く安曇野に到着した。

まず碌山美術館に立ち寄った。明治初期高村光太郎らとともに近代彫刻の先駆者となった荻原守衛を記念する美術館だ。美術館の管理人は鈴木画伯とは懇意と見えて、館内を気安く案内してくれた。展示されていた彫刻もそこそこに迫力があったが、美術館の建物がなかなかよい、絵になる眺めだ。

画伯は、建物をスケッチしたい人はこのまま残りなさいといって、残りの者を山葵田に連れて行ってくれた。そこは大王わさび農園といって、北アルプスの東側の麓に広がるのんびりとした雰囲気の場所だった。

農園の一角に、清流沿いに設けられた水車小屋がある。これが素敵な雰囲気を漂わせていて、スケッチの対象としてはもってこいに見えた。筆者は即座に、これを描こうと決めた。ほかの仲間たちもやはり筆者と同じ考えらしく、みな思い思いに水車小屋を取り囲むようにして、スケッチを始めた。

スケッチしていると、時折風が強く吹き渡り、そのたびに綿毛のようなものが一面に漂う。桜吹雪ならぬ綿吹雪だ。なんだろうと思ってあたりを眺めると、アカシアの木に、白い花がびっしりと咲いているのが見える。この花が飛び散って舞っているのかと思ったら、隣の人が教えてくれるには、これはポプラの綿毛なのだそうだ。

そういえばこのあたりには至る所ポプラの木がある。ポプラは柳の仲間だから、このような綿毛につつまれた種子を風に乗せて運んでいるのだろう。

そうこうするうち、スケッチも次第に形をなしてきた。するとほかの観光客たちが面白がって筆者たちの絵を覗き込む。多くの人たちは、遊び心から鷹揚になっていると見えて、下手な絵でもほめてくれる。お世辞でもほめてもらえば筆運びも滑らかになるものだ。

上の絵は、のんびりとした気分でアルプスの麓の景色を味わいながら、ゆったりと描き上げたものだ。その割には、色使いが乱れてしまったが、まあ旅の思い出を飾るものと考えれば、自分なりに満足できる出来栄えだろう。

こんなわけで楽しい一日を過ごすことができた。筆者ばかりがいい思いをするのも申し訳ないと思い、職場で待っている熟女たちには、わさび饅頭を土産に買った。翌日それを食べさせてあげたら、みな顔をしかめつつ、涙を流しながら食べていた。







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