壺齋散人の旅
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房総のグルメな旅




今年の夏に、山、落、松の諸子と草津へ旅行した折の事は、先稿で書いた。今回はそのメンバーに山子の細君を加え、五人で房総半島に遊んだ。当初は二台の車に分譲していくつもりだったが、松子の発案で、彼の車に五人乗っていこうということになった。多少狭苦しいが、一緒に行動したほうが楽しいだろうという配慮からだ。

西新宿で待ち合わせ、湾岸道路を経由してアクアラインを抜ける。高速道路料金の割引が行われていて、本来3700円のものが800円で通行できるのだ。海ほたるからは、京浜から京葉地帯にかけてのスカイラインが一望でき、なかなか気持ちがよい。

昼飯は鋸南町のサービスエリアにある道楽というすし屋でとった。敷地の中にお笑い劇場なるものを併設しているユニークなところだ。始めから目当てにしていたわけではなかったが、開店前から店の前に行列が出来ているのを見て、うまいからだろうと見込んだのだ。果たしてあては外れなかった。ネタが新鮮で、すこぶるうまい。食欲が進むついでに、杯のほうも進んだ次第だ。

これがきっかけになったわけではなかろうが、今回の旅はグルメな旅になった。当日旅館で食った夕食も、翌日勝浦で食った昼食も、五人の口腹を大いに満足せしめてくれたのだ。

投宿先は安房温泉というところにある紀伊乃国屋という旅館。館山で一遊びしてから投じた。

館山城の中では馬琴の八犬伝をモチーフにした展示が行われていた。辻村寿三郎のあの特徴的な人形に出会うことができ、懐かしい気分になった。城下の広場ではコスプレショーが催されていた。垣間見るに若い連中が思い思いの衣装に身を包んで、皆満足そうに練り歩いている。落子がそのうちの一人の女子をとらえて、スナップショットをとった。

また海中遊覧船というものに乗った。これは船の底が水族館のショーケースのようになっていて、客はそこから海中の様子を判然とみられるという趣向だ。水は沖へ出るに連れて澄んできて、遊泳する魚の群が目に入ってくる。しかしただでさえ船に弱い筆者は、著しく変化する海底の様子を見つめているうち、すっかり目が回ってしまった。

投宿先は温泉といっても、それらしい雰囲気はない。ありふれた村落の中に旅館が一軒混じっているといった風だ。お湯もそう取り立てていうほどのことはない。だが出された食事が滅法良かった。

さしみにはホーボー、黒ムツ、アジなどが出されたが、みないきづくりだ。イセエビもひげがぴくぴくと動いている。またあわびの踊り焼きというものも出た。これは生きているあわびに酸をたらしてから、火にかける。あわびは酸を浴びた段階ですでに酔っ払った風に踊りだすのだが、火が回ると踊りのリズムは更に激しくなり、最後は狂乱したようになる。なんだか見ていて気の毒になった次第だが、こんがり焼きあがった肉が、得もいえずうまかった。

翌日は仁右衛島に向かった。夕方から降り始め夜通し激しく振っていた雨が、その頃には止んだ。

この島はなかなか絵になる眺めなので、素人画家には人気がある。この日も何人かのグループがスケッチをしにやってきていた。筆者も周囲の景色を何枚かの写真に収め、後日絵の題材に使おうなどと思った次第だ。

ついで勝浦に行き、朝市を覗いた。時間が遅かったので規模は縮小していたが、うまいものを売る店が何軒か残っている。ここで思い思いに買物をした後、どこか適当な店に入って昼飯を食おうということになった。

昨日来聊か食傷気味の筆者はそばが食いたくなった。そこで何軒か探してみたが適当な店がない。そこへ偶然、郷土料理の看板を上げた洒落た作りの店(天平とある)が目に入ってきた。そこで、まあ折角勝浦まで来たのだから、ここでも新鮮な魚を食ってみようやということになった。

ところがこの店も大当たりだった。活きのよい刺身のほかに、なめろうとかサンガとかいう料理がなかなかよい。なめろうとは、アジをたたいてネギトロ風にしたもので、すこぶる風味が豊かだ。サンガの方はこのナメロウを焼き上げたもの。筆者はふたつとも始めて食ったのだが、すっかりその味に満足した次第。酒のほうもハカがいって、運転担当の松子を除き、四人で一升近く吸い込んでしまった。

おかみの言によれば、この店は魚市場での入札の権利を持っていて、市内に七ヵ所ある市場のどこでも、気に入った魚を買い付けることが出来る。それ故その日にとれた新鮮なものを直接客に出すことができるとのこと。道理で我々はうまいものを食えた理屈だ。

旅の醍醐味は、思いかけないところで思いかけない出会いをすることだ。ましてその出会いが幸せな気分に満ちていればいうことはない。この店では威勢のよいおかみの威勢のよい言葉に相槌をうちながら、威勢のよい料理を食うことができた。上の写真に写ったおかみの姿を見れば、読者にもその雰囲気の一端が伝わると思う。

こんなわけで、今回の旅は口腹の供養ともいうべきものになった。山子の細君も大いに満足げだ。ただ、道中運転をし続けて我々をくつろがせてくれた松子には、いつもながらのことではあるが、ひとり負担を背負わせてしまった。







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