あひるの旅日記
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うだつの上がる街郡上八幡:美濃・尾張の旅その二




郡上八幡を特徴付けて「うだつの上がる街」ということもできる。古い民家が連なる街区はもとより、町中いたるところにうだつをせり出した家を見かける。いまでは、日本でうだつを見るところは少なくなったので、郡上八幡のうだつのある街並は貴重な光景といえる。

うだつとは、隣家への類焼を防ぐための工夫だ。二階部分の側壁から張り出すようにして立てた防火壁で、材質を漆喰のような燃えにくいものにすることによって、隣家に火が燃え移るのを防ぐ。宿場町のように、隣家と密接して家が立ち並ぶところでは、有意義な工夫ともいえよう。しかし木造建築が立ち並ぶ条件のもとでは、うだつを立てたからといって、火災が防げるといったものでもない。

それ故、うだつ自体は主に装飾的な目的に純化される一方、類焼防止のためには、建物全体の不燃化が図られるようになる。

東日本では、うだつのある街並をみることはほとんどない。信州の海野宿がうだつのある街として知られているが、どうも昔からあったわけではなく、最近になってそのように作られたようだ。古い写真をみると、用水に沿ってわらぶき屋根の木造建築が連なり、そこにうだつらしいものをみることはない。

郡上八幡には、うだつの連なる比較的大きな街並がふたつある。ひとつは天守閣の南側の麓に沿って広がるもの、もうひとつは古川の北側に広がる商家群だ。商家と商家の間は、鼠のもぐりこむ隙間もないほど密着している。それらの二階の両端にそれぞれうだつが立てられているが、そんなに大きなものではない。これで延焼が防げるとはとても思えない。やはり装飾の目的が優先しているようだ。

この日(六月十八日)は、この町に着いたときからずっと雨が降りしきった。我々は傘を並べてうだつのある街を歩き、とある茶店に立ち寄って抹茶を飲んだ。宗祇水という湧水を用いて立てた茶だという。

静ちゃんあひると少尉あひるは、それぞれお茶の免許を持っている。静ちゃんのほうは裏千家、少尉のほうは財団だそうだ。流派によって作法は異なるが、茶の味はそう異なることはないそうだ。彼らの話を聴いて、筆者はちょっぴり物知りになった。

ここを出て宿に戻る途中、土産屋を何軒かのぞいた。筆者は虎屋という店で美濃路という名の菓子を買った。茶請けには絶好だという謳い文句にひかれたのだ。

旅館の名はあさの屋といった。旅館といっても民宿に毛の生えたようなものだ。風呂も便所も共用になっていて、しかも風呂は温泉ではない。またすこぶる小さい。郡上八幡にはこんな民宿のような旅館がいくつもあって、郡上踊りのシーズンにはどこも満員になるらしい。しかしこの日ここに投宿していたのは筆者らのグループだけだった。

夕餉の食卓には鮎の料理が沢山出された。主人が朝のうちに近くの川で釣り上げたものだという。だから大きいのやら小さいのやらが混在していた。一番うまかったのは、やはり塩焼きだった。







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