あひるの旅日記
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あひるたちの九州旅行その一:由布院の湯に浸かる




平成廿九年十一月八日。前回同様、羽田から飛行機に乗って大分空港で下りた。その足でレンタカーの出張所を訪ねてレンタカーを借りた。ホンダのステップワゴンの八人乗りをあてがわれたが、これが七人でも窮屈なので、もっと大きな車はないかと言ったところ、これは旅館の代金とセットになっていて、タダ同然で借りるのだから不平は言わないで、とシズちゃんあひるにたしなめられたのだった。このステップワゴンを横ちゃんあひる、アンちゃんあひる、シズちゃんあひるが交代で運転した。ほかの四羽は運転免許証を持っていないので、彼らの好意に甘んじた次第だった。



まず杵築城を訪ねた。ここは前回の旅行では立ち寄っていない。海にせり出すように立っている城で、もともとは大伴氏の支流杵築氏の城だったが、徳川時代に一国一城政策によって取り壊され、昭和の四十年代に復元されたそうだ。ガイドの説明によると、日本一小さな城を売り物にしているらしい。そんなものが売りものになるとは、なかなか思いつかないことだと感心した次第だった。

昼頃、日出町にある城下カレイを食わせる料理屋(能良玄家という)に入った。前回立ち寄った幸喜という店の近くである。ここで城下カレイのフルコースを頼んだところ、さしみ、煮つけ、カラ揚げを出された。あひるたちの印象では、前回よりボリュームが少ないということだったが、それは値段に比例しているので、文句を言わないようにと、ふたたびシズちゃんあひるにたしなめられたのだった。

食後高速道路を飛ばし、二時過ぎに由布院の温泉街に到着した。小生が由布院に来るのは、十九年前を含めてこれで三度目だが、温泉街の中心にある旅館に泊るのはこれが初めてのことだ。旅館の名は山水館といって老舗の旅館だそうだ。



旅館の駐車場に車をとめ、レンタサイクルを借りて、温泉街を一周した。この自転車は電動アシスト自転車で、大した労力を要せずして快適に走るのだが、調子に乗ると暴走することがあるので気をつけなければならない。小生はちょっと油断して転倒してしまった。この自転車を一列に並べて、温泉街のメインストリートを走り、金鱗湖まで行った。メインストリートも金鱗湖もたいへんな人出だった。そこいらじゅうで中国語を耳にするのはほかの人気観光地と同じだ。日本人に人気のある観光地には中国人も引き付けられるらしい。



湖には多くの鯉が泳いでいるほか、巨大な雁が二羽泳いでいた。普通見かける雁よりもはるかに大きく、我々あひる族もかなわないといった力強さがある。それが黄色いくちばしを差し出して、さかんに餌をねだる。餌がもらえないと、くちばしでつつこうとする。なかなか獰猛な雁だ。それにしても彼らがこんなにも巨大化したのは、観光客からたくさん餌をねだったからだと思われる。こんなに肥ってしまっては、もう飛ぶこともできないだろう。そう皆で感想を述べた次第だ。



さらに温泉街の外周を自転車で一周した。ところどころ色づいた葉がなかなか季節を感じさせてくれた。由布院は穏やかな谷間に展開しているので、その外周沿いの道は擂鉢の底を這うように展開している。

夕方部屋に通された。ゆったりとした和室で、オスのあひるが三羽ずつ二部屋に別れ、シズちゃんあひるは一部屋をあてがわれた。なかなか快適な部屋だ。前回のリゾートマンションとは比較にならない。風呂の湯は単純泉だが、適度に熱く疲れを癒してくれる。入浴後は別室で夕餉だ。出されたものをいちいち覚えていないが、品数が多く味もよかった。やはり温泉旅行は和室に寝て、和食を振る舞われることを以てベストとすべし、そんなふうに感じたところだ。

卓上、由布院の温泉街の賑わいについて語った。由布院はいま日本で最も人気のある温泉であるが、それは女性に高く評価されているからだと言う。女性が高く評価するわけは、温泉街のたたずまいが非常にアットホームで、女性の感性に合うからだそうだ。なるほど。

食後小生の部屋に一同集まり、小生が差し入れしたバーボンウィスキーを舐めながらとりとめのない話に熱中した。その大部分は、十九年前と今年とを比較するものであった。皆十九年ぶりに本格的な温泉気分を味わえることができて満足している様子が会話からは伝わってくるのだった。ともあれシズちゃんあひるは、今回皆を満足させることができたおかげで、由布院旅行をめぐるトラウマを解消できたようである。






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