壺齋散人の旅
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仙台の七夕を見る:陸前小紀行その一




八月七日(木)晴れて猛暑依然たり。朝七時過に家を出で、東京駅八時二十分発新幹線ハヤブサ五号に乗車す。車内満席の由なり。構内売店にて買ひ求めし缶ビールを飲みつつ、荊婦に持たせられし握飯を食ひ、また新聞に目を通しをるうちに、列車は十時前には仙台駅に到着せり。

駅構内に設けられし観光案内所にて七夕祭のパンフレットを受け取り、その指示に従ひて、まづ中央通りに赴き、そこの飾り付けを眺めて歩く。この通りは、普段より人通り多きアーケード街なる由。仙台のアーケード街は、七夕のために特別に設へらるる由なり。アーケードの天井より無数の七夕飾垂れ下りてあり。ここの七夕飾は薬玉飾といひて、おほきなる薬玉に和紙でつくりし大短冊を吊るすなり。その短冊飾に覆はれしアーケード街の散策路を、子供連れの家族やら、老人たちやら思ひ思ひに見物し歩けり。

中央通りを行くこと暫時にして一番町通りにぶつかる。中央通りとは直角に交はる通りなり。ここは仙台最大のショッピング・ストリートにて、外国の一流ファッションブランド軒を連ねてあり。七夕の飾りつけ一層華やかに見えたり。通り沿ひにはベンチを設けたれば、座しては汗をぬぐひ、また自動販売機にて買ひ求めし缶飲料を飲みなどす。

しばらく歩むに勾当台公園なるところに至る。様々な露店屋台を並べ、子供ら喜び歩きてあり。さるベンチに腰かけて汗をぬぐひをるうち、ホームレスと思しき一老人我が傍らに寄り来り、なにやら訴へかけんとす。余そのいふことを解せんとすれど、理解するあたはず。その表情よりして困惑しをることはわかれども、なにをいひをるか、見当もつかず。老人も,己が言分を聞き入れられざるとみしや、やがて訴ふることをやむ。

この老人、或は余をホームレス仲間と勘違ひしたるにや。その折の余の服装は、チノパンツに半袖シャツに野球帽、靴はといへば変哲もなきスニーカー。とても紳士の形とは言はれず。ホームレスに己が同輩と思はるるも道理といふべきいでたちなりき。

勾当台公園より引き返して、一番町通りの反対側の端まで歩き、そこより青葉通りを仙台駅まで歩く。しかして仙台駅より仙石線に乗り、本塩釜に至る。仙台本塩釜の間は二十分ほどの旅程なり。

本塩釜駅より十分ほど歩みてマリンゲートなる所に至る。松島行の観光船の発着場なり。途中町の光景を観察す。このあたり一帯はかの3.11の際に津波に襲はれしところにて、左手に見ゆるイオンの建物は一階が水に浸かりしが、屋上は津波を逃れ、避難せし人々みな無事なりしといふ。また、マリンゲートの発着場も水に浸かり、甚大なる被害をだせしといふなれど、今は復興が進みをるやうにて、被害の痕跡をあからさまに見ること無し。

船を待つ間、丸得なる海鮮料理屋に入り、昼餉をなす。鮑・雲丹・いくら丼なるものを注文す。味質量ともにまづまづなり。生ビールのジョッキを重ねたるほどなり。







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