壺齋散人の旅
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秋保温泉に浸かる:陸前小紀行その四




午後一時過、大崎八幡宮に至る。参拝前に腹ごしらへをなさんとてあたりを見回せどそれらしき店を見ず。以前来りし時には、参道には露店櫛比し大ひに賑はひたるやうに記憶せしが、この日は露店どころか人の姿も数ふるほどなり。前回はおそらくなにやらの祭の最中なりしなるべし。

あきらめて本殿に向かふ。時に少雨来る。傘をさして本殿前に至る。これ瑞鳳殿の場合とは異なり、空襲による消滅をまぬがる。されど年月による劣化は免れず。近年全面的解体修理を施せしといふ。修理にあたっては、もともとの材料を最大限使用し、新たな材料の使用は全体の二パーセントほどにとどめしといふ。桃山時代を代表する神社建築の由なり。

参拝を終へてバス停に戻らんとする頃、車軸の如き雨沛然と濯ぎ来る。傘が役をなさざる程なり。バス停に近づくに、折よく他の路線バス来れば、それに乗りて仙台駅に至る。

駅構内にて適当な食堂を物色せしが見当たらず。構外に出て、二階のデッキより周囲を見回すに、昨日の中央通の入口足下に見えたれば、そちらの方角に向かって歩く。再び短冊の森をくぐり歩きながら、適当な店を物色す。どういふわけか、魚介類のフライが食ひたいと思ひ、それらしき店を探したれど、見つけることを得ず。仕方なく、アーケード街入口近くなるイタリア料理店に入り、スパゲッティを二種と生ビール二杯を注文したり。

食後バス乗場の八番線より秋保温泉行のバスに乗る。これは市営交通にあらず、民間交通会社のバスなり。バスは時刻表通り運航し、一時間あまりして、四時十分過ぎに覗き橋なる停留所に到着す。時に雨滂沱として視界を遮る程なり。天気がよければ渓流見物をする心つもりなりしが、散策どころの騒ぎにあらず。

投宿先の秋保グランドホテルはバス停のすぐ傍らにあり。新旧二つの建物よりなり、こぎれいな印象なり。余は新館の七階の部屋に案内せらる。シングルルームにして、やっと身を収むるほどのスペースなり。昨夜の旅館の部屋も広くはあらざりしが、これは殆んど寝るばかりの部屋といふべし。リゾートには適せざるがごとし。まあ、料金相当といふべきか。

温泉にて一浴す。ここの温泉は食塩泉なる由。舐めてみるに塩辛し。温度もそこそこに熱し。浴後、この日一日の日記を整理し、七時より夕食。一階の大食堂にて、バイキング形式の食事なり。メニューはそこそこなれど、やはりバイキングはバイキングといふべし。風流に欠くるなり。なほ、この食堂は名取川の渓流に面し、晴の日には渓流の風景を楽しむことを得る由なれど、この日は猛烈な雨が降り、しかも日も暮れて辺りは宵闇に包まれたれば、足下を覗き下しても何も見えざるなり。

晩間バーボンウィスキーを氷水で割って飲むこと昨夜の如し。ただこの日は、飲みをるうちに眠気に襲はれ、我知らず眠りに陥りたり。







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